金曜日のお茶会
金曜日の夜。平日と休日の狭間。
休みが不定期な僕には変わらない一日だが、同居人にとっては週に一度のお祝いであるらしい。何をするかは決まっておらず、そのとき同居人が行いたいことに僕が付き合う形で、その『ささやかなパーティー』は開催される。
本日の催しは、紅茶とケーキを楽しむお茶会のようだった。
テーブルにかけられた白いレースのクロス。繊細な柄がきらめくティーセット。このようなものに特段詳しくはない僕だが、同居人が好みそうなデザインだということはわかる。
電球の色であたたかく照らされたダイニングには、まだ同居人の姿はない。仕事が一段落した僕は、一足先に椅子に腰かけてその帰りを待つ。
時を刻む秒針の音が響く中、このお楽しみの時間の始まりを振り返る。
――夢を語り合いたい。
たしか、そんな一言がきっかけだった。
――どのような?
そんな僕の野暮とも言える問いには、軽やかな笑い声が答えた。
――思い描けるものならなんでも。
同居人は色んな夢を語った。いつか訪れたい国。見たい景色。会いたい人。
僕も自分の夢を口にした。行きたい世界。見せたい景色。会わせたい存在。
『叶わない理想』と一蹴されるようなこと。諦めた方がいいと自らを説得しないといけないこと。現実から一時離れて、それらを語り合う時間は、ささやかでありながら、なくてはならないものになっていた。
ドアの鍵が開く音が、思考を現在へと引き戻す。
玄関に続く廊下の扉を開けると、視界に白い箱が飛び込んできた。ケーキを買ってくるとは聞いていたが、想像していた倍の大きさだ。
「何個買ったの?」
箱をテーブルに置く背中に問いかけると、喜びを隠しきれない声色が返ってきた。
「バスクチーズケーキが一つ、季節のフルーツタルトが一つ、林檎のケーキが一つ、栗とお芋のモンブランが一つ……」
「秋の味覚を楽しむ夜だね」
このような日に合う紅茶を用意したと、前に同居人が口にしていたことを思い出す。
「左上の、赤い缶のやつだよ」
「了解」
深い紅色の缶を手に取る。これからの季節にぴったりなパーティーの始まりだ。
あとがき
秋生まれなので、秋のケーキが落ち着きます。